益子虫雑感

 二日前の早朝、庭掃除をしていて、家の外壁にくっついている羽化したばかりのセミとその抜け殻を見つけた。セミのことはよく知らないが、アブラゼミでもミンミンゼミでもないことは確か。このところ夕刻になるとカナカナゼミが鳴くから、たぶんそれではないか。そう思って調べてみたら、間違いなかった。

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         ヒグラシ(Wikipediaから)

 仙台にいたころは、セミの声などほとんど無縁だった。旧居のあった地域は住宅地で樹木が少なく、たまにアブラゼミが迷い込んできて鳴くのを耳にする程度だった。それが、益子に来てまもなく、セミの声を聞くことになった。いまはまだヒグラシの声だけだが、そのたび、子どものころの郷里を思い出して懐かしくなる。日暮れに聞くヒグラシの声は、ことさら心にしみるようだ。そのひとときがいい。
 ヒグラシは生物の分類でいうとカメムシ目なのだそうだ。山中の湯治宿などでよく見かける、あの異臭を放つカメムシの仲間なのだ。嫌われもののカメムシとカナカナゼミが同類だとはにわかに信じがたいが、ヒトも含めて生物の進化を考えれば不思議でもなんでもないのかもしれない。カメムシ目にはセミの仲間のほか、ウンカやアブラムシなども含まれる。みんな身近にいる虫たちばかりだ。
 身近といえば、いまの住まいにはいろんな虫が闖入してくる。なかでも、驚かされるのはゲジゲジだ。どこから入ってくるのか、ときどき壁を這いのぼっているのを見かける。よく見ればなかなか愛嬌のある虫だが、妻は見つけるたびに大きな悲鳴をあげる。なんとなくムカデに似ているからなのだろう、そのたびにこれはゴキブリなどを補食する益虫なのだと教えるが納得しない。たたき落とそうとするから、そっと捕まえて庭に放してやる。大きさは5~7㎝もあるか。
 このゲジゲジ、這っているときはのたりのたりとしているから捕まえやすいだろうと思うとそうではない。なかなか俊敏で、逃げ足が速い。2回に1回は捕獲に失敗する。壁からジャンプして床に落ちたかと思うと、滑るように這ってあっという間に外に飛び出す。もっとも、そのほうが手間が省けていい。

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            今朝5時ごろ 仕事場から

 考えてみれば、もともと虫たちの棲み家に押し入るようにして建てた家だ。文句は言えない。むしろ、虫たちのほうがひどく迷惑しているに違いない。
 とすれば、こちらは多少遠慮して、仲良く暮らす以外ない。それが、里山のなかで暮らす者の作法かもしれない。