大震災からまもなく3年―岩手県釜石市のいまを歩く

 大震災から二年十ヵ月経った一月半ば、釜石市を訪ねた。震災の三ヵ月後に取材に入って以来、これが八度目。行くたびに、同じ被災地でありながら復興の進み具合に大きな格差が生まれているのを感じさせられている。
 格差は、当然ながら被災者にも及ぶ。そして、理不尽なことだが、復旧・復興の遅滞、停滞は被災者の将来をも危ういものにしている。
 復興は同じ釜石市にあって、大町、大渡町といった中心市街地でより進んでいる。すでにこの街を貫く大通りでは早くからホテルや銀行が営業を始めているが、いまはその通りに、震災前にあった飲食店やブティック、理美容店、さらには工務店や医院などが加わっている。それが日を追って増えている様子で、そうした店やオフィスが新たな装いで仕事を再開している。
 通りには、少なくとも日常生活に不自由しない程度の店がそろっている。当然、人の往来も増えている。中心地は、一年前と比べれば明らかに街らしい雰囲気を取り戻しつつある。市街地の南側にはイオンの巨大なショッピングセンターも建設中で、それを見込んで、周辺には住宅やアパートが次々と建設されている。街は、震災を契機に、大きく変貌しようとしているかに見える。

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       商店が戻ってきた釜石市大町の大通り

 このあたり一帯はかさ上げしなくてもよい土地が多かった。家屋を流失した住民の把握も、町内会のネットワークを使って比較的容易にできた。おかげで区画整理がスムーズに行き、復興に向けた事業が順調に進んだ。津波で家を流され仮設暮らしをしている住民たちもこうした目に見える変化に復興への歩みを実感しているようで、一年ぶりに訪ねた老夫婦も、今年中に元の場所で家が新築できると喜んでいた。
 漁業の回復も想像以上に早かった。沈下した岸壁のかさ上げ工事が進まず漁港の復旧にはなお相当の時間がかかりそうだが、魚介類や海藻類の収量は種苗から始めているホタテなどを除けば震災前の70~80%まで、物によっては100%にまで持ち直している。

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         一部が復旧した釜石市魚市場

 海は生命の源、と言われる。その復元力が働き、海の再生は意外に早かった。実際、漁師たちも、津波によって海水が掻き回され、海が以前にも増して元気になった、と口をそろえる。そう言う彼らの表情は、震災直後とは比べものにならないくらい明るい。
 一方、復興から置き去りにされているところも少なくない。一例が釜石市北部、両石から鵜住居にかけての一帯で、がれきが撤去されただけで、依然、まったくの手つかず状態に置かれている。
 高台移転やかさ上げによる市街地建設の計画は、そのとおり行けば夢のような街ができると思わせるような立派なものがすでに作られている。だが、それがいったいいつになるのか、かさ上げにしても移転にしても、まるで見通しが立っていない。かつての住民たちは未だ仮設暮らしをつづけているが、いまや誰もが、元の地に戻る希望を失いかけている。
 今年89歳になる、ともに要支援、要介護の老夫婦は、せめて高齢者が住める家があればと願いながら、この先についてほとんど望みを持っていない。子もなく、頼る人もない二人は、互いに助け合い支え合って日々を生きている。うつを抱え、足が不自由な妻をひとりにして先に死ぬわけにはいかない。そう言う傍らで冗談めかして恐ろしいことを口走るその夫は、自身も杖を頼りにしながらいまも車を運転している。
 近くには商店も病院もない。車なしではとても暮らしていけない。仕方なく、ときどき胴体をこすりながら「命がけ」で運転をしている。自分たちの命は軽い。命なんて惜しくもない。そんな物言いで老人は笑う。

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          鵜住居日向の仮設住宅

 こうした老人世帯は決して珍しくはない。それどころか、若い世帯が出ていったあとの仮設住宅は、行く当てのない老人世帯ばかりになるだろう。
 独居老人も多い。そうした高齢者の孤独死が跡を絶たない。自殺者さえ出ている。人生の終わりを前に自殺する老人の心境とはいったいどんなものか。考えるだけで気が滅入る。
 被災地では、日が経つにつれて、復興の流れに乗る人と復興から取り残される人との差が広がっている。土木工事や港湾建設で潤う人たちがいるその陰で、ますます窮地に追い込まれている人たちがいる。
 そこに手をさしのべるのが行政の仕事なはずだが、現状はそうなっていない。このままだと、弱者はどんどん置いてきぼりにされてしまう。
 復興はいったい誰のためなのか。オリンピックで復興がさらに遅れるのではないかと危惧されるなか、いま改めて問い直されなければならない。