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『暗いブティック通り』や『ストーナー』のことなど

 昨年の12月はじめから身辺にかかわることで多忙をきわめ、一年を振り返る余裕もなく、あっという間に年を越してしまった。それが、年が明けてもなおつづき、松の内を過ぎてようやく人心地ついた。気がつけば、本ブログを一ヵ月も投げ出していた。
 おかげで、まとまった本もあまり読めなかった。が、そんな少ないなかでも、印象に残った本がいくつかあった。そこから二冊をあげてみたい。
 一冊目は、パトリック・モディアノの『暗いブティック通り』。
 パトリック・モディアノは、ご存じのように昨年のノーベル文学賞受賞者で、『暗いブティック通り』は1978年にゴンクール賞を受賞した作品。
 モディアノは、フランスでは人気の高いよく知られた作家だが、わたしが彼の作品を読むのはじつのところこれが最初。(後日、『パリ環状通り』も読んだが)。それも、「彼は記憶やアイデンティティー、失われた時を探し求め、時代を超越した主題を書いている。記憶を呼び起こすことは大変な作業だが、彼は繰り返しこの主題に回帰し、作品すべてが一つのジグソーパズルのように結びついている点がユニークだ」という、スウェーデンアカデミーのエングルンド事務局長の評に惹かれて。もちろん、韓流ドラマ「冬のソナタ」に影響を与えた作品だということも、訳者のあとがきを読んではじめて知った。

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 小説は、記憶を失った主人公の「私」が、過去の自分を取り戻すために細い手がかりをたぐっていく物語。そのなかに、かかわりのあったらしい人物と自身の過去の姿が、靄がかかったように不分明なまま現れて、また移りゆく。その不確かな彷徨が、探偵小説さながらミステリアスに描かれる。
 エンターテインメントの手法をもちいながら通俗に陥らず、人間の暗部に注がれる眼差しは乾いていて深い。会話を多用しながらも抑制的で、真相はつねに隠されている。暗渠を流れる人知れぬ水流のようでもある。
 結末はない。謎は本を閉じたあともつづく。これが、ずっとあとまで尾を引く。
 二冊目は、アメリカの作家、ジョン・ウィリアムズの『ストーナー』。
 これは、1965年に発表されたもののほとんど顧みられなかった、販売総数がわずか2000部の、一年で絶版となった小説。ところが、半世紀も経った2011年にフランス語の翻訳版が出てから火がつき、フランスやオランダでベストセラーになるや、2013年12月にはイギリス最大の書店ウォーターストーンズによって、「ほぼ世の中に忘れられた」作品として「ブック・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。このこともあとで知ったことだが、わたしはある書評を読んで興味を持ち、手に取った。

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 小説では、貧しい農家に育ち大学の教員になった主人公ストーナーの、報われることのない生涯が描かれる。そのなかで、繰り返し訪れる理不尽さに戸惑いながらそれを受け入れ、ひたすら目の前の仕事に向き合っていくストーナーの日常が淡々と語られる。
 それはあまりにも悲しいが、もしかするとどこにでもありそうで、共感を誘う。不幸を引き受けていくことのつらさの向こうの、人生への深い慈しみが、水が地にしみていくような静謐な文章で綴られていく。それが胸を打つ。
 たいした波乱もない、しかし、その静かな息づかいが強く印象に残る。読んでいて深い感銘を受けた。しばらくは夢にも見た。
 この二つの作品にはどこか共通したものがあるらしい。それがまた、わたしの感性と響き合うあってくるようにも感じる。のちのちまで尾を引くのは、もしかするとそのせいかもしれない。

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 話は変わるが、忙しいと言いながら、やはり秋田県のにかほのほうには行ってきた。金浦の漁協職員からハタハタの漁があると教えられて、12月の上旬、やりくりして赴いた。
 ハタハタ漁と言えば男鹿の漁がよく知られている。でもこの時期、東北では青森県の日本海沿岸から新潟県の沿岸にかけて、小さな漁港でもハタハタが水揚げされる。にかほの金浦漁港や象潟漁港、平沢漁港なども同様だ。それを、3日かけて追いかけた。
 以下は、そのときの写真の一部。

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     底引き網船で捕ってきたハタハタを選り分ける浜の人々

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   水揚げされたハタハタを買いつける人たち 福島のほうからも来ている

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   漁港でハタハタをねらう人々 釣るのではなくサビキの針に引っかける