野里征彦著『こつなぎ物語』第二部、第三部が出版、完結

 岩手県北部、小繋山の入会権闘争に材を取った野里征彦の小説『こつなぎ物語』がこのほど第二部、第三部と同時出版され、完結した。
 完結に当って著者からメッセージが届けられたのでここに紹介し、あわせて、この機会にぜひまとめてお読みいただけるようお願いいたします。

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       『こつなぎ物語』について
                            野里征彦

「岩手こつなぎの会」の人から、「今のままでは小繋事件が風化してしまう。なんとか小説にしては貰えないだろうか」との相談を受けたのは十年以上も前のことである。だがその時は「百年前の、山の入り会いの争い」なんか、小説にしたって、おもしろくも何ともないだろうと思って、しばらく放置しておいた。小説は面白くなければならないというのが私の持論だからである。だが再三の要請に「とりあえず資料だけでも読んでみましょう」と答えたのだった。
 岩手県北部、山間にあるこつなぎ村は、往古から村をとりまくこつなぎ山に入って暮らしを立ててきた。ところが明治の末に、村人の知らない間にこつなぎ山の権利が茨城から来た資本家に売り渡されてしまった。そのことをひたすら村人に内緒にしてきた資本家は、大正四年に村が大火に遭い山が村山であった書類が燃えて無くなってしまうと突然牙を剥いて、村人を山から追い出そうとした。そこから山を守ろうとする村人の命がけの闘いが始まるのである。資料をいろいろと読んでみたらその闘いが実に面白い。訴訟を闘った人たちには申し訳ないが、本当に下手な小説なんかよりはるかに面白いのである。それで二年かかって書きあげた。出来上がったものを見て、なんだ事件をそのまま書いただけじゃないか、と言う人も居るかも知れないがそれはコロンブスの卵である。なにしろ半世紀を超える争いだから、始めは五百枚ぐらいのものを考え、何処をどう切り取るか、どう書いたら小説になるか、場面や登場人物が多すぎるので架空の一家を投入して視点を統一しようかなどと随分悩んだのである。最後に事件を風化させたくないという「こつなぎの会」の人たちの気持ちに思い至り、これは事件を忠実に再現するしかないという結論に至ったのである。結果、千五百枚を超える長編になってしまった。
 この小説における私の仕事は、古代遺跡から拾い集めた欠片を組み合わせて、壺を復元するといったようなことであったように思う。欠片の足らないところは自分で作り、接着剤もむろん自家製である。なるだけ事実に近づけようと会話は現地の言葉を可能なかぎり忠実に取り入れた。読者にとって、さぞ読みにくいことだろうと案じていたら意外と好評で、「とにかく面白い」(秋田・工藤)「誰が何と言おうと傑作だ」(岩手・金野格)などの言葉を多く寄せられて、気を良くしている。ぜひご一読願いたい。
                             (二〇一四年二月)