陶芸家、成井恒雄の「遺作展」「回顧展」が開かれる

 陶芸家、成井恒雄さんの「遺作展」と「回顧展」が、3月30日から栃木県内の二つの会場で同時開催される。そのうち「遺作展」は小山市にある「たから園現代工芸」を会場にして4月7日まで、また「回顧展」は同じく小山市の「大日山美術館」を会場にして4月21日まで開かれる。

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  成井さんは昨年の3月に亡くなった。その3ヵ月前には「作陶展」を開いたばかりで、穏やかで奥深い味わいのうえに年ごとの若々しさが加わった作品群は、多くの人々に驚きと感銘を与えた。
 その感性と技量は、70歳を過ぎてなお進化をつづけていた。成井さんを知る人たちはそんな彼の新しい作品を期待していた。それがかなわなくなった。
 それから一年。成井作品をもう一度まとまった形で見てみたいという声が高まり、ようやく「遺作展」「回顧展」として開催されることになった。作品の多くはすでに人の手に渡っているが、今回、所有者からそれらの一部も借り受け、展示されるという。

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 個人的なことを言えば、娘が長く世話になっていた関係で(ついには嫁と舅の関係になってしまったのだが)、わたしもずっと親しくさせてもらった。そんな付き合いのなかで、窯を焚いたあとなどにはなにかしら器を送ってもらうことがあった。無類の酒好きだと知って、正月用にと赤絵のぐい飲みを送ってもらったこともあった。それがすごく馴染んだ。
 残念なことに、そのうちのいくつかをあの大震災で失ってしまった。成井さんを悼みながら、それもまた悔しくてならない。
 益子の伝統を踏まえながらつねに新しい造形を求めてきた成井さんは、決して時流に乗る陶芸家ではなかった。したがって俗受けすることもなかったが、専門家のあいだでは高い評価を得てきた。また、大勢のすぐれた弟子たちを育ててきたことでも知られている。
 蹴ロクロと登り窯から生み出される成井さんの器たちは、どれもが新鮮で驚きに満ちている。その軌跡がまた見られると思うと、たまらなく嬉しい。