転居から1ヵ月余、益子から

 益子の新居に落ち着いて1ヵ月あまりが経った。引っ越し荷物の整理もなんとか済んで、まわりに気を配る余裕もできた。同時に、少しずつ仙台との違いもわかってきた。
 気候は内陸型なのだろう、海が近い仙台とくらべると、気温は日中高く朝晩が低い。つまり、一日の気温差が大きい。その落差にはじめは戸惑い、油断して風邪を惹きもした。が、最近はそれにも慣れてきた。いまの時季はむしろ朝のひんやりした空気が心地よく、まわりを囲む森のせいもあってか、高原にいるような爽快な気分になる。
 朝はウグイスの声と寺の鐘の音で目が覚め、少し経つとホトトギスやヤマバトが鳴き出してのどかな一日が始まる。民家はわが家の下に数軒、上にはハンガリー出身の彫刻家(故人、いまは奥さんがひとり住んでいる)のアトリエ兼居宅と別荘が2軒あるのみ。したがって人の行き来はほとんどなく、静かなことこのうえない。

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 彫刻家のアトリエ 庭にはいくつもの彫像が立っている(4月ごろ撮影)

 仕事に疲れたら散歩に出るのもいい。コースはいくつもある。なかでいま気に入っているのが、通りを隔てた高台にある美術館と周辺の公園、寺院の境内をまわるコース。およそ40分程度の行程だが、枝を大きく広げた木々の下を鳥のさえずりを聞きながら歩くのは気持ちがいい。高低差もかなりあるから、足腰の鍛錬になって健康にもいい。夕刻ならちょっと足を伸ばし、そのまま居酒屋の暖簾をくぐるのも悪くない。
 と、まあ、いまのところ、住まいと環境にはたいへん満足している。

 ところで、大震災から5年になるこの3月、例年どおり被災地をまわる計画だった。しかし、引っ越しの関係でかなわなくなり、落ち着いたらできるだけ速やかに訪ねることにしていた。
 それが、先日ようやく実現した。南三陸町から気仙沼陸前高田大船渡、釜石、宮古、久慈まで行き、途中、べつの取材で秋田県内をまわってから、原発被災地の福島県沿岸を巡った。丸一週間の行程だった。
 そのことを少し触れたかった。が、あいにく今回は時間がない。なので、次回に譲ることにする。

ようやく転居完了

 4月下旬、ようやく益子に転居することができた。いろんなアクシデントが重なり、予定より1ヶ月半遅れの引っ越しとなった。すでにきょうは5月朔日、新居の下の通りでは恒例の陶器市が開かれている。ゆっくりと見てまわりたいところだが、荷物の整理がつかずそんな気分にもなれない。といって、焦っても詮ない。ぼつぼつやっていくことにしよう。
 追々ここでの暮らしぶりも伝えていきたい。

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              改築前の物置小屋

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               改築後の新居

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        転居の半月ほど前 娘宅では窯炊きの最中だった

仙台から益子へ

 来年三月早々、住み慣れた仙台を離れて栃木県の益子町に移住する。いまいる土地に飽いたとか、移住先に娘たち家族が住んでいるとか、違った環境で新たな仕事に挑みたいとか、理由をあげればいろいろあるが、もう少し静かな場所で暮らしたいと思っていたところ折よく娘から誘いがあり、それに乗ったというのが正直なところか。
 しかし、いざ引っ越すとなるとなかなかたいへん。家は古い小屋を借りたのはよかったが、人が住めるように改造するのが大仕事。地元の大工さんに掛け合ってなんとか請け負ってもらうことになったが、いったいどんなものになるのか見当もつかない。
 いま住んでいる家を引き払うのもたいへん、引っ越しにともなう作業も山ほどある。こんなことならもう少し体力があるうちにすればよかったと後悔したが、すでに始まった作業は止められない。そんなこんなで、毎日忙しく駆けまわっている。おかげで仕事には身が入らないし、このブログもほったらかし。が、仕方がないか。
 来春まではこうした状態がつづきそうだ。というわけで、今回はその断り。どうかご勘弁を。

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    益子との行き来のおり茨城県大子の袋田の滝に立ち寄った

このところ忙しくて

 大半はさもない用事なのだが、毎日がなんとなく忙しく過ぎていく。下手をすると3日もメールチェックをしないこともあって、気がついたら山のようにメールが届いているといった具合。といっても、これまたさもない、ネットショッピングをしてうっかり購読してしまった広告メールばかりだから、読みもせず片っ端から棄てている。それでも、友人や知人などからのメールは別のボックスに仕分けてあるので、誤っていっしょに削除してしまうことはない。
 そんなわけで、ブログの更新もままならない。出かけるときはいつもタブレット端末を持参していくが、それを使ってブログを書く気にはならない。タブレット端末はほとんど調べ物をするための道具で、それ以外はカメラ代わりに使う程度。メールも送受信できるが、出先では特別のことがないかぎりやらない。
 もっとも、ブログを更新しなくたって困る人はいない。だから、そのまま放っておいてもかまわない。が、どういうわけか、それもまたなんだかけじめがつかないようであまり気分がよくない。
 で、きょうもまたこれから遠出するのだが、月2回の更新が果たせなくなりそうだと思うとすっきりしない。何日も通じがないときのような、下腹が妙に重たいような気分なのだ。
 ということで、今回は先日益子町に行ったおりたずねた西明寺の写真を掲載して、茶を濁すことにする。いや、それだけではあまりにも素っ気ないので、それぞれの建造物の由来について、益子町のHPから引用した文を添えておく。

 

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 西明寺三重塔(国指定重要文化財
 高館城主益子家宗の建立で、三層とも柱間が三間、初層間に二層は和様尾垂木、三層は唐様、軒廻りは初層繁垂木、二・三層扇垂木、隅木は初層のみ和様、他は唐様、木割等の手法は優美でそれぞれの建築様式の特徴をよく表している。屋根は軒の出が深く、勾配や反りもきついがバランスのとれた安定したものである。相輪の材質は青銅で九輪の水煙が雲形の連続模様で、伏鉢に「天文七歳二月吉日」の銘がある。関東甲信越四古塔のひとつである。

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 西明寺楼門(国指定重要文化財
 基礎を設け柱は三十二角造り。左右の側室は前後に区切られ、前室に金剛像・仁王像を安置している。背面腰組下蟇股は形態珍奇、彫刻手法、細部模様絵など精美である。柱間を飾る中備(箕束)、匂欄出組の唐様斗拱、頭貫木端の繰形彫刻は特徴のある渦形文様で室町時代の特徴をよく表している。

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 西明寺本堂(県指定有形文化財
 益子勝直によって開扉供養が行われ、元禄14年(1701)大改修で現在の形成になった。柱は円柱で内法貫と頭貫をめぐらし隅柱外方には唐獅子彫刻を取り付け、中備の蟇股は十二支が刻まれている。内部は中三間が蔀戸、他は引き違い板戸で内外陣に分れ外陣天井は鏡天井で龍の墨絵が描かれている。内陣は格天井で人物花鳥等が描かれ単彩が施されている。内外陣の欄間は天女奏楽、鶴と仙人、浮舟上の仙人などの彩色彫刻がある。

土祭&成井恒雄展in益子

 「土祭」と書いて「ひじさい」と読む。3年に一度の、9月の新月から満月にいたる期間、焼き物の町として知られる栃木県益子町で開かれる土にまつわる祭りだ。
 歴史は浅い。第1回は2009年9月で、「窯業と農業の町として、足元の土を<命を循環させるすべての原点>として捉え直し、感謝をし、そこから新しい暮らしのあり方を見出していこう」(同実行委員会HPから)と始まった。その際、「古代の土や泥の呼び方のひとつ『ヒジ・ヒヂ』を用いて『土祭/ヒジサイ』という名がつけられた」(同)。
 第1回の祭りでは旧市街地を会場に、作品の展示やセミナー、ワークショップ、演奏会などがおこなわれた。祭りはそのご年ごとにさかんになり、いまでは春と秋の「陶器市」とはまた違った、益子に根ざした新しい文化的な催しとして定着している。
 その祭りがまたやってくる。ことしは、9月12日の新月から28日の満月までの期間、開かれる。
 祭りではさまざまな催しが企画されている。陶器、染色などの作品展示のほか、トークセッションやワークショップ、演劇、朗読、演奏、映像などの公演、上映もある。詳しくは実行委員会のHPをご覧いただきたい。

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 この企画の一つとして、「成井恒雄展」(9月12日~30日)も開かれる。これには成井氏にゆかりのある作家たちの作品も同時展示されることになっていて、池田泰教(映像)、高山英樹(木・陶)、能登実登利(陶・絵)、町田泰彦(文)、村田昇(写真)、安田麻由子(染)の各氏に加え、わが娘も成井窯(陶)として参加する。会場は益子駅に近いギャラリー「pejite」。

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 なお、映像の池田泰教氏は福島県郡山市出身の映像作家で、2014年の<福島映像祭2014>では同氏の手になる「3 PORTRAITS and JUNE NIGHT」が上映された。これは成井恒雄氏ら益子の陶芸家の姿を追った2009年制作作品の続編で、東日本大震災と成井氏の死去が重なったあとの、遺された窯とそこにまた新しい命が吹き込まれようとする様子が池田氏独特の静謐な色調で描かれている。

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            「3 PORTRAITS and JUNE NIGHT」より

 土祭では、きっと、新しい視点からのひと味違った益子のかたちを見ることができるはずだ。楽しみにしている。